垂れ壁(下がり壁)とは?
あまり耳慣れない「垂れ壁」ですが、ほとんどの人が家の内装で目にしているインテリアです。ここでは、垂れ壁とはどのような意味なのか、袖壁との違いについて解説します。
垂れ壁とはどういう意味?
垂れ壁とは、天井から垂れ下がった形状をしている壁のことです。一般的な住宅で部屋のなかを見渡してみると、所々に天井から下部に突き出している壁があります。
大空間をソフトに仕切る役割として、垂れ壁は古くから日本家屋で用いられてきました。もともと大きな空間をとりにくい日本家屋は、部屋ごとに間切りすると窮屈に感じます。
天井から垂れ下がった壁を作ることで、さり気なく空間を仕切る工夫がされています。
垂れ壁は、天井から40~50cmほど下がっているのが一般的です。また、法律では天井から50cm以上突き出した垂れ壁は「防炎壁」と呼ばれています。
垂れ壁は防災機能を持つことでも知られており、万が一の場合には煙の広がりを防ぎ、避難しやすいようになっています。
ちなみに、下がり壁と呼ばれることもありますが、垂れ壁との違いはありません。
袖壁と垂れ壁は違う?
住宅で使われる壁にはいくつかの種類があり、袖壁もその一つです。袖壁とは、壁から垂直に張り出した、幅の狭い壁のことを意味します。
垂れ壁は天井から垂れ下がっているのに対して、袖壁は建物から外に突出している壁のことです。
袖壁は目隠しとしてプライバシーの保護や延焼防止を目的としています。民家の軒下やマンションの共同部分であるバルコニーに取り付けられるのが一般的です。また室内でも、寝室などで部屋の一部を目隠ししたり、冷蔵庫の横に取り付けられたりもします。
袖壁や垂れ壁のほかに、床から90~120cmほどの高さの「腰壁」も使われています。ほかの壁面とは異なるタイルなどで仕上げられ、壁の汚れや傷の防止が目的です。
垂れ壁の役割やメリット
垂れ壁を取り付けるのは、機能的な役割からデザイン面での理由などさまざまです。ここでは、一般的な住宅に垂れ壁を設ける3つのメリットについて解説します。
防煙、防炎の効果
垂れ壁には、万が一の事態に備えた防煙・防災効果があります。煙は上方向に溜まってから急速に部屋全体に広がる性質を持っています。
垂れ壁は天井から40~50cmほど下がっているため、火災が起きても煙が部屋全体に充満するスピードを抑えられます。
マンションなどの集合住宅では、建築基準法の規定によって垂れ壁の設置が義務付けられています。戸建てでもリフォームする際は、規定に違反していないか注意しましょう。
間仕切り
垂れ壁を設けるメリットは、ドアや壁を使うことなく、空間を仕切れることです。
日本家屋は大きな空間を取りにくいことから、壁や仕切りを配置すると窮屈な印象を与えます。空間を分けたい場所に垂れ壁を設置することで、ドアや壁を使わずに独立した空間を作れます。
キッチンとリビングが壁で仕切られていない対面キッチンが、垂れ壁が使われる代表例です。ただし、戸建てではガスコンロに不燃材料を使えば垂れ壁は不要になる場合もあります。
デザイン性
機能面だけが設置される理由かのように思える垂れ壁ですが、デザイン性の高さもメリットの一つです。複数の垂れ壁のパターンを組み合わせることで、おしゃれな空間を作れます。
立体感や奥行きを感じさせるなど、アイデア次第で自由度の高い空間を作れるのが魅力です。
垂れ壁は一般的な角張った形状のものだけでなく、三角やアーチなど種類も豊富にあります。インテリアによってはドアを設けずに、アーチ形の開口にしておくのも良いでしょう。少し邪魔に思われがちな垂れ壁ですが、自由度が高く、理想的なデザインが実現できます。
垂れ壁のデメリット
アイデア次第でおしゃれな空間を作れる垂れ壁ですが、設置する際の注意点もいくつかあります。
ここでは、垂れ壁を設けるときに特に気をつけたい3つのデメリットについて解説します。
圧迫感を感じることがある
垂れ壁は、本来何もないはずの空間に壁を増やして作られます。そのため、垂れ壁を設置する場所によっては、圧迫感を感じることもあるでしょう。
特に、背の高い人はであれば視線に入る範囲も広くなることから、少し邪魔だと感じるかもしれません。ただし、垂れ壁が低すぎると機能面でのメリットが損なわれるため注意が必要です。
部屋の広さや設置する場所によっても、垂れ壁の印象は大きく変わります。角張った形状の垂れ壁ではなく、三角やアーチ型にするなど、圧迫感が出ないようなデザインにしましょう。
薄暗くなってしまう可能性がある
天井部分に壁が増えることから、通常の間取りと比べて光が入りにくくなるのがデメリットです。蛍光灯や間接照明だけでなく、窓から入る自然光を遮ることもあり、薄暗く感じるかもしれません。可愛らしくおしゃれなデザインなのに、薄暗ければ台無しになる可能性があります。
特に、キッチンは全体的に明るくしたい人も少なくないでしょう。キッチンの広さと明るさのバランスを考慮しながら、垂れ壁を配置することが大切です。
家具・家電の配置が制限される
天井から壁を垂れ下げた場所は、活動範囲が狭まることに注意が必要です。間取りによっては、家具・家電の配置に頭を悩ませることになるかもしれません。特に、壁一面に設置するタイプの収納ラックなどは置きにくく感じることでしょう。
見た目のデザイン性はもちろん大事ですが、実際の生活をイメージしながら設置場所を決めるようにしてください。
垂れ壁は後付け・撤去できる?
家のリフォームやリノベーションをする際に、垂れ壁の後付け・撤去を考えている人もいるのではないでしょうか。ここでは、費用相場とともに垂れ壁の後付け・撤去について解説します。
基本的には後付け可能
垂れ壁はリフォームによって後付けが可能です。ただし、垂れ壁は天井に補強材を入れたうえで釘で固定するため、配管ルートなど場所によっては後付けができないこともあります。
また、垂れ壁を設置する費用相場は1ヶ所あたり5~8万円ほどです。特に、アーチ形の垂れ壁は高い施工技術が必要であり、予算オーバーにならないように注意してください。
垂れ壁は撤去しても問題ない?
壁を撤去すると、耐震性能に影響が出る場合と出ない場合に分かれます。
空間を仕切る目的で設置される垂れ壁は耐震性に影響しないため、撤去しても問題ありません。ただし、キッチン周りでは建築基準法で垂れ壁の設置が義務付けられていることがあるため事前に確認しておきましょう。
キッチンの垂れ壁を撤去する際にかかる費用は、1.5~2万円ほどです。撤去後に補修が必要な場合は、壁紙を部分的に張り替えるために5~7万円ほどが必要になります。もし壁全体を張り替えたいという場合は、別途で8~10万円ほどの費用がかかります。
垂れ壁の設置で後悔しないためのポイント
さり気なく空間を仕切れる垂れ壁ですが、設置してから「失敗した…」と後悔する人も少なくありません。ここでは、垂れ壁を設ける際に覚えておきたい3つのポイントについて解説します。
仕上がりイメージを必ず確認する
おしゃれな空間を作れる垂れ壁ですが、似合うデザインが絞られることに注意が必要です。
住宅のデザイン性を高めるために、アーチ壁やR垂れ壁は人気があります。空間に曲線があるだけで柔らかにアクセントになり、部屋の印象を大きく変えることもできます。一方で、曲線の角度がしっくりとマッチするデザインでなければ、浮いた存在になりかねません。
おしゃれな家に仕上げたいという理由だけで、垂れ壁を設置すると失敗する可能性が高まります。どのような仕上がりになるのかイメージをしたうえで、垂れ壁を設置するようにしましょう。
家全体の雰囲気に合わせてデザインする
垂れ壁には三角やアーチ型などさまざまな形状がありますが、家全体の雰囲気に合わせてデザインすることが大切です。洋風・和風など雰囲気に合わせてデザインすると後悔しにくいです。
特に、アーチ形の垂れ壁を設置する際には注意しましょう。日本の伝統的な和の住宅にもアーチ型はマッチしますが、本来は洋風の住宅にピッタリのデザインです。純和室であるにもかかわらずアーチ型の垂れ壁を設置すれば、浮いた存在になる可能性があります。
おしゃれな印象を与えるアーチ型の垂れ壁ですが、設置場所を間違えると後悔につながりかねません。アーチ型の魅力を引き出すためにも、家全体の雰囲気に合わせてデザインを考えましょう。
垂れ壁以外の選択肢も検討する
垂れ壁を設置する目的の一つは、空間をさり気なく仕切ることです。一方で、圧迫感を感じたり薄暗くなったりするなど、場合によってはデメリットが多くなることもあります。空間を間切る方法として垂れ壁は選択肢の一つですが、それ以外の方法も検討してみましょう。
空間を間切る選択肢として、以下のような方法が考えられます。
- ・格子やパーテーションで区切る
- ・開閉できる間仕切り扉を用いる
- ・室内窓を組み合わせる
- ・収納家具や造作棚などを用いる
室内空間の広さやデザインに応じて、空間を間切る方法を変えてみてください。工夫次第では、圧迫感を感じたり薄暗くなったりなどのデメリットが解消できます。
まとめ
垂れ壁を取り入れることで、空間をゆるやかにつなぎ、おしゃれな印象に変えられます。垂れ壁の形状は豊富にあり、デザインの自由度も高く、使い方次第でおしゃれな空間に様変わりします。
一方で、圧迫感を感じたり薄暗くなったりするなどのデメリットにも注意が必要です。キッチン周りなどは建築基準法で垂れ壁の設置が義務付けられている場合もありますが、垂れ壁以外の方法で空間を間切る選択肢も検討してみてましょう。
空間デザインはおしゃれに傾倒しすぎると、利便性の悪さから後悔することもあります。内装業者やデザイナーとしっかり相談したうえで、理想の家づくりに近づけてください。