予約の取れない人気料理教室の新たな拠点が完成
静岡市中心街からほど近く、江戸時代より職人や商人の町として知られたこの土地に、
辻村円(まどか)さんが主宰する発酵ごはんの教室「円居」(まどい)のアトリエ兼自宅が完成した。
もともと別のアトリエでスタートし、SNSを通じてあっという間に話題になった教室。
開催当初から5年経った今まで、満席にならなかった回はないという。
今では東京や大阪、四国から毎月通う生徒さんもいるほどで、より活躍の場を広げようとこちらへ移った。
この土地は円さんのご主人の実家だった場所で、かつては工場だったが、三角屋根が特徴の平屋へと建て替えた。
家を建てる際のテーマは「菌が育つ家」。
発酵菌が育つようにと、ケミカルな壁紙を一切使わず、酒蔵のような造りをイメージしたという。
壁は合板のまま、キッチンはモルタル仕上げという一見無骨な印象にみえる素材だが、円さんが少しずつ集めたという古き良き暮らしの道具がしっくりと馴染む。
「昔ながらの道具や味噌、麹など、古くさいと思われがちなイメージを、モダンでおしゃれに伝えていきたい」と円さんは語る。
まるでインテリアのように並べられた道具や食器の数々に、教室にきた生徒さんたちも目を輝かせていた。
家事すべてが楽しみに 家中を愛着あるもので揃える
そんな理想の暮らしを体現する円さんの最も大切な時間は朝。日の出の時間により異なるが、
4~5時頃に起床し、家族が起きてくる7時頃までが自分の時間。仕事の準備や家仕事に費やしている。
「毎朝起きて、いい家だなぁとついため息が出てしまうんです」と円さんから笑みがこぼれる。
それほど︑この家には円さんの〝好き〟が詰まっているのだ。
好きな作家のランプやうつわ、倉敷や金沢などで買い集めた竹かご・台所道具、
漬けた梅や手づくり味噌を保存するホーロー容器、ご主人のお母様から譲り受けた古道具⸺。
こだわりに囲まれた暮らしは︑幸福感を与えてくれる。こんな暮らしなら、
料理も掃除も洗濯も、家仕事を楽しみに変えてしまうに違いない。
妊娠中に知った発酵食 資格を取りに料理教室を主催
円さんが発酵食に興味を持ったのは、妊娠がきっかけだった。
円さんは、セレクトショップやカフェなどを運営する会社でキャリアを積んだ後、結婚。赤ちゃんを授かった。
「妊娠中のつわりがひどくて。〝飲む点滴〟と言われる甘酒なら赤ちゃんにもいいかなと思ったんですが、
そのまま飲むのは苦手で・・・。フルーツを加えたり、砂糖代わりに料理へ足したりとアレンジをしたところ、
料理がおいしく仕上がったんです」。
甘酒に使われている麹パワーについてもっと知りたいと、妊娠中に発酵食スペシャリストの資格を取得。
得た知識を誰かに伝えたいと教室を開講した。
このときお子さんはまだ0歳。
「両親が教師で、私自身も人に教えるのが好き。育児に専念するよりも仕事と両立した方が自分には合うかなと思いました」。
教室が常に満席になり、リピーターが多い円さんの教室には、バイタリティ溢れる彼女自身の魅力が詰まっているようだ。
アトリエと繋がる住居で〝暮らしそのもの〟を表現
入り口のガラス戸を開けると、広々とした土間が出迎えてくれる。
室内は、太鼓張りの障子で囲まれており、空間の仕切りは緩やかだ。
住居部分への玄関はアトリエ横に構えられ、障子を開けておけば、教室にいながら家族の帰りがうかがえる。
一番こだわったというモルタルの長いキッチンは、アトリエから住居部分までがっている。
生活のすべてを魅せたかったと、道具類はあえてしまわずディスプレイ。教室からも日常生活を垣間見ることができる。
モルタルの床は、夏はひんやりと気持ちよく、また、床暖房が入っているのでは暖かい。
家族や友人が自然と集う︑居心地のよい設計だ。