新しいものと古いものが隣り合う優しい世界
駿河湾に面した港町・用宗に、7年前にオープンした『Timeless Gallery&Store』。もとは純喫茶だったという建物は、ツタが絡まる外観と、内観を彩る塗り壁や古材を敷いた床が郷愁を誘う。オーナーの花澤さんはプロダクトデザイナー。「手前がショップ、奥がデザイン事務所になっています。ここを選んだ理由は、街の喧騒を忘れて欲しいから」。その言葉通り、訪れる人をやわらかな空気が包み込む。取り扱うのは、彼がデザインしたプロダクト、セレクト雑貨、ヴィンテージ品など幅広い。
「例えば楽しい時間はあっという間、辛い時間は長く感じるもの。時の流れは曖昧で、製造年でモノの価値を測ることはできません。時間軸を解放した先にある、自分の価値観を見つめなおしていただけたら」。そう言って、店の中をぐるりと見渡す。「毎日使うものを選ぶことは、人生の“相棒”を選ぶわけだから、迷って当然なんです。カタログを見比べて実物を手に取り、悩み抜く。その手間さえ愛おしい」と花澤さん。「熱量を込めて選んだからこそ、修理してでも使い続けたい」のだと教えてくれた。
毎日の暮らしにひそむ、駆け引きさえ喜びに
ディスプレイされた商品に共通するのは、過度な装飾はせず、素材感が生き生きと感じられること。それゆえに長く使えること。例えば、花澤さんが美濃焼の窯元と開発した茶器「Frustum(フラスタム)」の湯呑みは、手に馴染む感触、軽さを叶え、口の部分がすぼまるデザインが「飲むたびにお茶の香りを迎えにいく」感覚をもたらす。陶器の重い印象は影を潜め、洗練されたフォルムに魅了される。ミニマルで心地いい、この姿勢は家づくりにも当てはまる。
彼自身、2年前に中古住宅を購入してリノベーションしたばかり。建築士に依頼し、モルタルや木の素材感を活かすモダンな意匠と、収納などの利便性を兼ね備えた“暮らしやすい家”を形にした。「家は自分だけの“好き”では完成しません。例えばキッチンは妻の管轄ですし、玄関やリビングは自由にしたいけれど、誰かがモノを1つ増やせばバランスが変わる。その駆け引きが楽しい。気になるものはしれっと片付けたりね(笑)」。
新築時、一枚板と鉄骨でテーブルを作ったものの、すぐにお子さんが落書きをしたそう。「でも研磨してオイル塗装すれば消せますし、風合いが加わります。子どもと作業すれば家族の思い出にもなる。そんな風に長く一緒に過ごせるものこそ、本当に“好きなモノ”に育っていくはず」。この言葉に、すべてのエッセンスが詰まっていた。
花澤さんが選んでくれた、心地よい暮らしを作り出す5つのモノ
1.花澤さんがデザインした「コウマ スツール」(3万1,680円)は折りたたみ式。奥はテーブルレッグ
2.昭和を彷彿とさせるガラスコップがずらり(各700円)
3.「Frustum」の茶器は、ドイツのプロダクトデザインの権威「レッド・ドット・デザイン賞」を受賞。土瓶8,448円、湯呑1,628円
4.出産祝いに人気の「おしばなし文庫」。へその緒、乳歯などを収納できる。各3,850円~
5.有田焼400年を記念した「TYパレス1616」シリーズは華やか。プレート990円~
●Timeless Gallery&Store(タイムレスギャラリーアンドストア)
「とき」をテーマに集められた家具や食器、生活雑貨、オリジナル商品が並ぶライフスタイルショップ。使い続けることで魅力を放ち、暮らしを豊かにするアイテムに出合える。
[TEL]054-266-9981/[住]静岡市駿河区用宗1-27-5/[営]11:00~19:00/[休]水/[P]2台
-花澤啓太さん
『Timeless Gallery&Store』のオーナーでありプロダクトデザイナー。島田市出身。芸大卒業後に家具デザイン、家具職人を経験したのち、2008年に静岡市で『mag design labo.』を設立。商品企画、デザイン、ブランディングのすべてを手がける傍ら、事務所に併設するかたちでショップをオープン。グッドデザイン賞、iFデザインアワードなど受賞多数。