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熊本地震を経験した工務店に学ぶ 「家づくりの地震対策、どうすればいい?」

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熊本地震から知る。国の耐震基準を守っていても、倒れる家はある

2016年4月14・16日にたて続けに発生した熊本地震。震度7の大きな揺れが2回、夜間と未明に町を襲いました。この短期間に震度7の大地震が2度も繰り返されたのが、熊本地震の大きな特徴です。被災した住宅は17万棟。うち半壊3万棟、全壊8000棟。ひなんや車中泊した人の数は20万人にも上りました。

なかでも私が注目したのは、国の建築基準法の新耐震基準(いわゆる2000年基準)を満たしているのに、倒壊してしまった木造住宅があったことです。2000年基準の住宅で、倒壊は7棟、全壊は12棟。

(写真)/熊本地震で倒壊した住宅。「倒壊」=人の生存空間が残らないほど崩れ落ちた状態。「全壊」=倒壊はまぬがれても、構造の柱・梁が破壊された状態。補修できる場合とできない場合がある。 

倒壊したなかには、まだ築10年の比較的新しい住宅もありました。さらに大変残念なことですが、はじめの震度7で一旦屋外にひなんしたものの、家が無事だったため帰宅。そこに2度目の震度7が襲い、今度は揺れに耐えきれず家が倒壊。犠牲になってしまった方もいらっしゃいました。

耐震性能で最低限守らなければいけない「2000年基準」を満たしていた住宅にもかかわらず、人命が失われる倒壊の被害が出たことに、「なぜ?」と驚かれた人も多かったでしょう。このことは、私たち家づくりに携わる人間にとっても、大きな衝撃だったのです。

東海でも予想される「南海トラフ地震」は、熊本地震の30倍規模

東海でも予想される「南海トラフ地震」は、熊本地震の30倍規模

東海地方にも必ず来ると予想されている「南海トラフ地震」。被害総額は東日本大震災の10倍近く、津波被害のなかった熊本地震と比べても30倍近くになると想定されています。

「30年以内の発生確率70%」と言われていますが、それが明日なのか、数十年後なのかは、誰にもわかりません。やはり家を建てるとなったら、人命を守る地震対策は最優先で進めなくてはならない課題だと考えます。

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木造住宅は、「耐震等級3」で格段に強くなる

木造住宅は、「耐震等級3」で格段に強くなる

(写真)/最も揺れが激しかった益城町では、築浅住宅にもかかわらず1階が完全に押し潰されたり(倒壊)、構造の柱が傾いて修理不可能(全壊)な住宅があった。

熊本地震後の調査で、当社300戸の住宅被害はほぼゼロ、でした。当社グループ会社の約5000戸の住宅では、最も揺れの激しかった益城町にある124戸でも倒壊はゼロ、でした。

これは当社が厳しい耐震設計ルールを自主的に定め、長年にわたって地震に強い設計をしてきたこと。さらに2009年から「耐震等級2」、2011年から「耐震等級3」を全住宅で採用してきたためだと考えています。

(写真)/「耐震等級」=国が定める「住宅性能表示制度」により、建築物がどの程度地震に耐えられるか、3段階で示したもの。採用は任意で、守ることが義務付けられている建築基準法の「新耐震基準」とは別の指標になる。 出典:「耐震等級3のススメ」

【耐震等級 の 3レベル】
・等級1 → 新耐震基準(2000年基準)相当
・等級2 → 病院・学校等の耐震性に匹敵
・等級3 → 消防署・警察署等、重要な防災拠点の耐震性に匹敵

また地域全体で調査が進むと、「耐震等級3」を取得していた木造住宅では、ほとんどが無被害または軽微・小破の被害(構造に影響のない壁の亀裂等)であることが分かりました。前述のとおり「耐震等級1」に相当する2000年基準の住宅では、わずかながら倒壊・全壊がありました。

(写真)/熊本の例を静岡に活かしてほしい、と耐震強度向上の重要性を語る小山さん

ここから「耐震等級3」の住宅ならば安全性は格段に高まり、地震後も元の自宅に安心して住み続けられるのではないか、と考えます。このとき「耐震等級3」にするためのコストアップは、会社にもよりますが坪1~1.5万円が目安だと思ってください。

建物は無事でも、屋根の被害は多発

すこし難しい話をしましたので、次に家そのものは無事だった場合、どんな被害が多かったのかをお話します。

1回目の震度7。
わたしの書斎は突っ張り棒や金具ビス留めで転倒防止していた書棚があっさりと倒れ、部屋中がめちゃくちゃになりました。

(写真)/震災当時の小山さん自宅書斎。この時小山さんは不在で無事だったが、もしも倒れた書棚や飛び出した重量物が直撃していたら…。 写真撮影:小山貴史さん(エコワークス株式会社)

ですが電話は通じ、社員やお客様にも目立った被害はなく、ライフライン(電気・ガス・水道)も問題はありませんでした。

翌々日深夜1時、2回目の震度7。
いわゆる「本震」といわれている、とても激しい揺れです。ある社員が「生まれて初めて、本当に死ぬかと思った」と言うように、明らかに前回よりも大きな激しい揺れを感じました。電話はもちろん、ライフラインはすべて使えません。唯一FacebookやLINEのインターネット回線だけはつながったので、なんとか社員間で通信を試みました。断水が発生し、もっとも困ったのがトイレ用水です。熊本ではあちこちにある、湧水をくんでなんとかしのぎました。飲料水のペットボトルはあっという間に店頭から消えます。水道は熊本市は3日後、震央の益城町は10日後から復旧しました。停電も発生しましたが、4日後に復旧。プロパンガスは使用可、都市ガスは最長1ヵ月ほど使えませんでした。

お客様のご自宅で多かったのが「瓦が落ちた」被害です。当社エコワークスの瓦被害はゼロでしたが、グループ会社の築年数が経った住宅では被害がありました。雨が降ればすぐ雨漏りになるので、屋根の修理は急務です。ですがあまりにも膨大な修理件数に、熊本中どこの工務店でも瓦職人さんの手がまったく足りません。これは当社も同じこと。ですが、やはりお客様は「すぐ来てほしい!」となります。実際本震翌日からの2日間で、およそ200件の緊急出動依頼が殺到しました。すぐ来てほしい、と言っているお客様に「防犯・雨漏りなど緊急度の高い方から順に回っています、大変申し訳ないがしばらくお待ちいただきたい」とお伝えせざるを得ないのは、とても心苦しく辛いことでした。

現場では社員と瓦職人さんが協力してブルーシートをかける応急処置をして回りました。発災から10ヵ月以上経った今、屋根修理工事の9割が終了。引き続き順番に回らせていただいている最中です。

また水道局の断水は私たちでは手の打ちようがないのですが「水が出ない、早く来て!」という電話もたくさんいただきました。あらゆる通信が制限されるなか、断水の情報がお客様のもとには届かなかったのでしょう。

工務店というのは、災害時これほどお客様に頼りにされる存在なのだ、と改めて心に刻むことになったのです。

地震にそなえ、いま私たちができること

地震にそなえ、いま私たちができること

こうした経験をふまえ、これから家を建てる方に知っておいてほしいことがあります

まず地震には「造り付け家具」が強いということ。転倒防止をしていた置き家具は、震度7には耐えられませんでした。造り付け家具は建物と一体化しているので、揺れで倒れることはなく安全です。

「太陽光発電」も活躍しました。太陽光発電を搭載した築年数の新しい住宅では屋根被害もなく、停電中も太陽光発電から電気を使うことができました。ただし一度に使える電気の量は限られているので、平常時に使用可能な電気量を確認しておいてください。

「エコキュート貯湯タンクの転倒防止」もとても大切です。エコキュート(電気で沸かす給湯システム)を採用している住宅では沸かしたお湯を貯める大型タンクが戸外にあり、それが転倒した、という連絡を何件もいただきました。せっかく水道が復旧しても給湯システムが壊れていてはお湯が沸かせず、お風呂も入れません。地震時も倒れないよう、設置時にしっかりと固定してください。

最後になりましたが、万一被災してしまい、自宅の建築会社に連絡することになった場合。できるならば
・メール等で
・被害のある場所の写真を貼付
・在宅日時を複数候補
お知らせいただけると、助かります。写真があればおおよその被害状況がわかり、伺う緊急度が判断でき、応急処置のアドバイスもお伝えできます。在宅日時を複数教えてもらえれば、訪問したけど会えなかった、前の工事が予想以上に長引いた、といった状況でも後回しにならないよう調整できます。

災害時、わが家が無事であってほしい、と誰もが願うはずです。様々な地震対策に取り組む東海地方のみなさんも、ぜひ熊本地震を教訓に家づくりをすすめてほしいと思っています。

(写真)/セミナーの様子。約150社の地震対策に熱心な工務店・設計事務所が集まり、小山さんの話に耳を傾けた

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【  ま と め 】

■熊本地震では、国の耐震基準を満たしていても倒壊・全壊した住宅があった
■東海地方で予想される「南海トラフ地震」は、熊本地震の30倍規模
■住宅には「耐震等級」制度があり、「等級3」の住宅はほとんど無被害だった
■「等級3」にするためのコストアップ目安は、坪1~1.5万円
■家が無事でも「瓦が落ちる」被害は多発、修理の順番待ちに時間がかかる
■地震時、造り付け家具・太陽光発電は有用、貯湯タンクは転倒防止策を
■万一被災したら被害箇所の画像を送付、在宅日時は複数候補を

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ライターのご紹介

嶌本 倫子
嶌本 倫子

損害保険会社・出版社編集を経てフリーエディター・ライター。分野は旅と宿、住まい・収納、マネー、防災など様々です。

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